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大阪地方裁判所 昭和41年(わ)2264号 決定

(被告人)

本店所在地

大阪市浪速区戎本町一丁目七番地

名称

新大阪不動産株式会社

代表者代表清算人

森隆俊

代表者住所

大阪市北区兎我野町一二五

右の者に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件公訴を棄却する。

理由

本件公訴事実の要旨は、

被告人会社(以下被告会社という。)は昭和三五年三月三〇日宅地造成分譲等を目的として三和土地住宅株式会社の商号で設立され、その本店を守口市寺内町二丁目六四番地に置いていたところ、昭和三九年一月八日右本店を大阪市港区市岡元町二丁目二七番地に変更し、同年六月一八日その商号を新大阪不動産株式会社に変更したものであり、右三和土地住宅株式会社の代表取締役水井久蔵同会社監査役豊田志津子は、同会社会計事務等に従事していた森蔭彬韶と共謀の上、右会社の業務に関し法人税を免れようと企て、昭和三七年度分の法人税二、八一八、四〇〇円、昭和三八年度分の法人税三四、六五六、五一〇円を、売上げ金の圧縮除外等の不正手段により、それぞれ免れたものである、

というのである。

ところで、一件記録によれば、本件公訴は昭和四一年五月二六日起訴状を当地方裁判所に提出することにより提起され、右起訴状には会社本店所在地として大阪市港区市岡元町一丁目二七番地、会社代表者として森蔭史、代表者住居として大阪市住吉区北畠町四五番地と各記載されており、右起訴状謄本は同年五月二八日午前一一時に右本店所在地において右森蔭史に対して交付送達され、同人は会社の弁護人として岩田渉弁護士を選任し、昭和四一年九月三日に開かれた第一回公判期日には同弁護人が出廷し、他の共同被告人らの公判と分離する旨の決定がなされ、昭和四八年五月三一日宣告の大阪高裁決定で森蔭が被告会社の代表者でないとされて後の同年七月一四日森隆俊に昭和四八年一〇月一日の公判期日の召喚状が出されたが、森は右公判期日に欠席し、以後何らの手続も行なわれることなく現在に至っており、他方被告会社は昭和四一年五月二七日大阪地方裁判所の許可を得て臨時株主総会において会社解散決議をなすとともに清算人に水井議幸、豊田勝枝、森隆俊を選任し、代表清算人として森隆俊が選出され同日就任し、同年五月二八日右各事実について登記手続が完了したことが認められる。

そうすると、本件記訴状の謄本は前記森隆俊代表清算人の就任後である昭和四一年五月二八日に至って既に代表権のない森蔭史に対して送達されているのであってこれをもって被告会社に対する本件起訴状謄本の適法な送達がなされたとはいえないものといわなければならない。

ところで、検察官は、本件起訴状送達の有効性について、右起訴状謄本は、被告会社の代表者交代の登記と同一の日に前代表者代表取締役森蔭史に交付されているわけであるであるが、右は被告会社の当時の本店所在地において送達手続がなされているものであって、右送達により被告会社が起訴状謄本の内容を了知しうべき状態におかれたものというべきであり、刑事訴訟法五四条により準用される民事訴訟法一七一条一項では、いわゆる補充送達の制度を認めているが、これは送達実施機関が送達場所で送達名宛人に出会わなかった場合には名宛人に現実に訴訟書類の内容が了知されるかどうかは別にして、その名宛人に訴訟書類の内容を了知しうべき状態におけば足りるとしたもので、本件においては補充送達の趣旨からして、被告会社に対する本件起訴状謄本の送達は有効なものと解するのが相当であり、検察官が起訴したのは被告会社であって森蔭史ではなく、送達名宛人としての森蔭史名の記載は送達先被告会社を特定するためのいわば補充的記載とみるべきものであるうえ、森蔭史は本店所在地が変更されるまでは、被告会社を事実上管理していたものであるので、補充送達の趣旨からしても、森蔭史は少なくとも被告会社の事務員、雇人等に準ずる立場にあったものと認められ、同人において本件起訴状謄本の交付を受けることによって有効な送達がなされたとみるべきである、と主張する。

よって検討するに、そもそも法人に対する送達は、その代表者を受送達者(送達名宛人)として送達しなければならず(刑事訴訟法二七条、五四条、民事訴訟法一六五条、なお参考として同法五八条)、受送達者を誤った送達はすべて無効である。従って本件法人の場合、受送達者は被告会社ではなく、被告会社の代表者である代表清算人森隆俊であるから、本件起訴状は同人に対して送達されねばならない。そこで被告会社の代表者でなくなった森蔭史に対する本件起訴状謄本の送達をもって補充送達の規定を類推して被告会社代表者森隆俊に対する送達として有効なものといえるかというに、本件においては、そもそも受送達者を誤っているのであるから補充送達の規定の類推適用は問題にならないと思われるが、元来、民事訴訟法一七一条一項があるのは送達をなすべき場所において受送達者に出会わないときその事務員、雇人等に書類を交付されればそれが通常受送達者本人の手に渡るような密接な関係にあるからであって、記録によって認められる本件での森蔭史と森隆俊との対立関係に鑑みれば両者の間に前記の如き補充送達を認めうる密接な関係は認められないこと明らかであって、この点からも、右補充送達の規定を本件に類推適用することは相当でないものといわなければならない。

そうすると、本件においては、公訴の提起があった日から二箇月以内に起訴状の謄本が被告会社代表者に送達されず、本件公訴の提起はその効力を失ったものであるから、刑事訴訟法三三九条一項一号により本件公訴を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 武部吉昭)

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